習慣というにはぬるい、習性というようなものがある。幼少から暗殺教団という特殊な組織の中で育つと、当然ある種の習性が骨身にしみつく。それは例えば普段から足音や気配を殺す癖であったり、日常生活においても常に己の死角や間合いの範囲を無意識にはかっていたりといった具合だ。
その中の一つに五感の研磨がある。常に神経を尖らせておくことは常人にとっては結構な負担にもなる。それが苦にならぬほどに身について常態となっているのだ。人に紛れ人知れず目的を成し遂げるアサシン達は、常にあらゆる感覚から周囲の情報を取り込み、状況を的確に把握する必要がある。判断を違えれば己の命だけではなく同胞をも巻き込み、ひいては教団に被害を及ぼす恐れがあった。当然と言えば至極当然のことだった。

だから、その微かな物音に対してマリクは最初、無意識に反応を返した。手にしたペンを羊皮紙の上へ滑らせるのをやめ、眼球だけを動かして戸口の方を見る。それから、己の神経の端に引っ掛かったものは違和感だと認識した。
管区長として支部に詰めていると、当然のこと人の出入りには敏感になる。エルサレムともなると頻繁にとは言わないが他都市の支部よりは仲間の出入りが多い。何度も出入りする者に対しては気配や微かな足音からその特徴を読み取ることができた。支部は民家に紛れて路地の一角に佇む、エルサレムのごく一般的な家屋の形をとっている。だが、裏通りに面した扉はあまり使用されることがない。教団の同胞は皆、奥の部屋の天井に開いた出入り口から人の目を盗んでおとなうことになっているのだ。
微かに空気を揺らして耳を掠めた音は通りの側からではなく、水飲み場のある部屋の方から聞こえた。この都に派遣されてくる予定があっただろうか。マシャフからの伝令を一瞬脳裏で手繰り寄せたのは、その僅かな足音が違和感の源だったからだ。だが、顔を上げたマリクの目に映った戸口から伸びる影は、よく知ったものだった。
気配よりも先に影が床を舐める。音もなく。それが常のことだったから扉をくぐって現れた男に聊か驚いたのは否めなかった。
「……アルタイル」
「安全と平和を、マリク」
いつもの挨拶、いつもの低く感情の乏しい声音。特に訝ることはない。暫く前からエルサレムに身を置いているアルタイルは標的の調査をしている最中だ。調査の途中で他の仲間の仕事を手助けしたりもする。支部に姿を現すことは不自然なことではない。
マスターアサシンから降格されて以来、随分と経つが、再度その階級を昇るうちにも、地位に比例した以前のような傲慢さは薄れていた。口を開くと相変わらず互いに辛辣な言葉と無愛想な返答ばかりが交わされるが、それも幾分かは以前より落ち着いてきた気はする。時折互いの表情が以前のように穏やかになることさえあるのを、当人以外の者ならば気づいていた。
いつも鋭い眼差しに逃げることなく相変わらず静謐な気配だけを纏って彼はマリクの前に現れる。
マシャフからの羽根はまだ届いていない。翼を休めにでもきたのだろうか。それにしては何故か妙に引っ掛かかる違和感にマリクはひそやかに眉を顰めた。
「なにかあったのか」
「隊商の襲撃された地点を突き止めた。目撃者がいたらしい」
低い声が目深にかぶったフードの下から告げた言葉に、彼が今何の件を追っているのか思い当ってマリクはああと合点がいった。確かそれは、頻繁に起こっているキャラバン襲撃のことだ。
「……積荷はどうなっていた」
「無傷で戻っているらしい。持ち主の元に」
「狂言か」
棚から資料を抜き出して照合しながらマリクはこの件を主に委ねている仲間の名前をリストから探し出す。街の外の任務に当たる同胞の階級を確認すれば腕には充分に申し分がなかった。中堅の男の手には丁度いいだろう。
「わかった、兄弟に伝えよう」
「積荷の集積所を確認しておくべきだろう」
「そうだな、そのほうがいい。早い方がいい」
「……了解した」
カウンターをけぶらせる香木の紫煙越しのアルタイルの言葉は、ほんの半拍の空漠をもって返された。また一瞬、マリクは妙な違和感を覚える。どうしたというのか。けれど問い詰めるにはあまりに漠然とした感覚で、結局彼は黙って眼前の男を見返した。見慣れた白いフードの影に埋没した精悍な顔立ち、猛禽の如く炯々と耀くアルタイルの双眸はここからでは覗き込むことができない。捉えたとしてその眼には恐らく、情報を読み取るに足る色は浮かんでいないのだろう。アサシンは使命のために感情を抑圧するに長けた生き物だ。そしてかつて破格の若さでマスターとなったアルタイルはそれが一等うまかった。一番傍にいたマリクでさえそう思うことが多々あった。
「……マリク、部屋を借りたい。奥の西側の部屋は空いているか」
不躾な視線に不快感でも覚えたのだろうか、珍しくアルタイルは眼差しから逃れるようにさりげなく俯くとそう言った。
支部には水飲み場とほど近い、敷布やクッションをあつらえた休息部屋のほかにも、小部屋が幾つか用意されている。他の兄弟が逗留していない今、どこを使おうがそれは自由だ。
「勝手に使え」
妙な違和感だけは残ったが、離れた視線を追いかける気は起らなかった。自分の考え過ぎなのかもしれない。アルタイルは傲慢で危なっかしくはあったが、変わった。辛酸を舐めて過ごすうちに色々なことを学んでいったのだろう。今の彼にはそう感じるものがある。だとしたらもう、多少のことはわざわざマリクが目くじらを立てずともいいだろう。
マリクはそっけなくそう答えると隻腕で器用に巻物を広げてカウンターの上へ転がした。これ以上の言葉がないという姿勢を嗅ぎ取ったのか、アルタイルが無言で踵を返す。ちゃり、と武器の揺れる音と微かな気配を引き連れて、戸口の向こうへ消える男のことを、そのときはそれ以上不審には思わなかった。




貴重な灯油を無駄にせぬよう、カンテラの数を減らす。最後に訪れた兄弟を送り出して書類を棚にしまうと、マリクは軽く伸びをしてカウンターを出た。一つだけにした角灯を吹き消すと、それで詰所の室内は闇に埋没する。開いた扉から忍びこむ月光だけが夜目に耀く道標だった。扉をくぐって蔦の這う壁を横切り、水飲み場まで出れば天井から青白い月影がしらりと石畳の床を濡らしている。傍らに立てかけてある鉤のついた棒を掴んで天井に開く戸口を閉じ、錠をおろせば一日の仕事は終いだ。夜間、支部の出入口は閉ざされる。火急の場合でも決まった合図がなければ扉は開かれない。
戸締りを終えて踵を返したところで、ちらりと視界に入ったものに足を止める。勝手知ったる支部の建物内のちょっとした違いは、僅かなことでもマリクの目に留まる。異変に敏くなければ暗殺者は務まらぬものだ。
部屋の片隅に設けられたスペース。織模様の美しい厚手の絨毯と幾つかの心地よいクッションは常に手入れが行き届き、快適であるようにしつらえられている。その柔らかな布の間に、月光を受けて鈍くきらめくものが落ちていた。身を屈めてそれを拾い上げたマリクは、手に馴染む重みと形状に思わず顔を歪めた。ショートソードだ。握り手に沿うように磨滅した飾り彫と、革の鞘の間から覗く丁寧に手入れがされているとわかる刃の色合いは、やはり覚えがあるもので、速やかに脳裏に閃いた持ち主の名に二度、マリクは渋面になる。
(一体どういうつもりだ)
己の身を贖う刃をこんなところに置きっぱなしにするなど、言語道断だ。忘れたというのも冗談にさえならない。短剣を片手にどうしてくれようかとそのあたりを足音もなく歩き回ったのち、ぴたりと足を止めたマリクは深い深い溜息をついた。翌朝にアルタイルを叱責することもできるが、それはそれで大人げない気がした。相手はあれでも稀代の凄腕アサシンなのだ。己の武器の重みを知らぬ素人ではない。逆にこんなミスを犯すほど疲れがたまっているのだろうか、とふと不安になった。昼間にアルタイルを前にして感じた違和感を思い出す。
短剣を手にマリクは廊下を抜けて奥の小部屋へと向かった。珍しく他の教団仲間は逗留していないため、人の気配は非常に薄い。確か、西側の部屋と言っていた。軋む床板をものともせず無音で歩くのはアサシンのサガだ。一線を退かざるを得なくなったとはいえ、マリクとていまだマシャフの戦士であることに変わりはない。暗殺の任務は難しくとも今でも前線で戦うに十分すぎる腕前は錆ついてはいなかった。



西の小部屋の扉は細く開いていた。
よく知る気配は扉越しのこの距離では眠っているのかまでの判断はつきかねた。起こすことになるかもしれないと思えば若干気が咎めたが、無言で立ち入って条件反射で刃を突き付けられるのは御免蒙りたい。
「アルタイル」
低く声をかけたが、室内から返答はなかった。
灯りのともっていない部屋を照らすのは、小さな明かり取りの窓から差し込む月の光だけだ。曇り硝子を通したそれは弱弱しく床の上を一筋の矢で照らしているにすぎないが、厳しい訓練を経たアサシンの目には光源としては事足りた。
狭さからか物がなくても閑散とした感じを受けない室内には、寝台もない。部屋の一角、クッションの山に埋もれて眠るアルタイルとは反対側にある簡素なテーブルへと静かに歩み寄る。手にした短剣をそっと置いて、そのまま静かに部屋を出るつもりだった。その時、鼻先を掠めたそれにぎくりとして脚を止めるまでは。
(……っ?!)
癖を通り越して本能の一部と化したそれは、五感からの情報を受けて思考へと昇華するより速いことがある。所謂、脊髄で折り返すやつだ。ひりつくような緊張に四肢が警戒を促し筋肉が瞬発力を最大限に発揮すべく緩やかに撓む。袖口とブーツに仕込んだ隠しナイフを意識したところで、マリクはその反射の引鉄となった信号が何であったかを自覚した。
これは血の匂いだ。
己は勿論怪我などしていない。返り血であれば此処まで匂うか。そもそも支部に戻ってきたアルタイルは返り血など浴びていなかったし、それ以降に支部からは出ていない。残された可能性は一つしかなくそれを戸惑いをもってマリクは胸中で反芻した。
(怪我、か?)
室内に微かに漂う血の匂いに頬を強張らせる。アルタイルに声をかけようかと逡巡したマリクの目に、無造作に椅子の上に掛けられた白いローブがとまった。月の青白い光の中で、その厚手の布地に染みついた黒々とした斑はサッシュベルトの色よりも深く見える。一瞬、ひやりとした感覚が心臓のあたりを舐めた気がしてマリクは息を呑んだ。大量というほどではないが、決して少なくない量の血斑だ。
「……アルタイル」
低く押し殺した声音は自分自身でも驚くほど剣呑に響いた。月の光滴る床の上、分厚い敷布の上に蹲る男は、恐らく眠っていない。密やかに押し殺した呼吸は不規則だった。すっぽりと掛布を被って蹲るアルタイルに近づくと、微かに血臭が強くなる。
「起きているんだろう」
「……」
「怪我をしているのか」
「…お前が気にすることじゃない」
ようやっと戻ってきた返事は低くくぐもってかろうじてマリクの耳を掠めた。不機嫌というよりも何かを耐えるように絞り出された返答に、かっとしてマリクは掛布の端を掴んだ。時折、身勝手とさえ思われる突き放すような頑なさが、アルタイルにはあった。昔はそれが壁に思えて寂しくもありもどかしくもあった。それがマリクには互いの間に開いた距離に思えた。それを埋めたいと、思っていたのかもしれない。今はどう思っているのかマリク自身にもわからない。左腕と弟と、二つの喪失はあまりにも唐突で大きすぎた。それでもアルタイルとこうして対峙すると不意に焦燥に駆られる。ただ、知っている。この孤高の雄鷲は強いけれど、傷付かないわけではない。傷を晒そうとしないだけなのだと。そしてマリクはそれを知っていて見ないふりをしていられるような男ではなかった。
「それは俺が決めることだ」
「マリク……っ」
強引に引いた掛布がアルタイルの指の間を擦り抜けて翻る。ほどけるように剥ぎ取られた布の下からまろびでた男の身体に、マリクは鋭く息を呑んだ。
「な……」
ばたりと乾いた音が絨毯の上を擦り、血の匂いが空気に濃密に混じる。美しい、斑模様の浮かぶ羽毛が花弁のように宙を舞った。鷲の羽。そう、羽根だった。おののくように敷布の上で丸められたアルタイルの背中から、歪な翼が突き出ている。両の肩甲骨のあたりから、まるで背中を突き破るようにして生えた一対の翼は、「翼」と呼ぶにはどうみても不完全で醜かった。これでは到底空など飛べるべくもない。まるで地を割って必死に伸びる枝葉の如く、背中を裂き、鷲の羽根は床の上にくたりと広がってマリクのブーツの先に触れおちた。月光に照らされた風切羽と思しき先を視線で辿れば、曲がった骨が苦しそうに捩れ、皮膚を突き破っているのがわかる。生えだした付け根のあたりに赤黒くこびり付いた血痕は生乾きのままで、無理に動かせば再び鮮血が溢れることが容易に見てとれる。血の匂いは間違いなくこれだった。
無駄なく締まった見事な背筋の撓りと対比する痛々しく不格好に歪んだ翼は、まるで奇怪な神画のようにマリクの目に焼きついた。
「見ていて、気分のいいものではないだろう…?」
沈黙を破ったのはアルタイルの呻く様な声だった。咄嗟に言葉が出ずにマリクは獣の唸り声のような溜息をもらした。正直、あまりにも不釣り合いな構図に気を呑まれて茫然とした。アルタイルは誰よりも高い空を飛翔する鳥だったからだ。力強い双翼で、自分など及びもしない遥か高みを舞う鷲だった。いっそ嫉妬するほどに美しく強く、雄々しかった。嘗てその傲慢さが美徳とさえ錯覚するほどに。だというのに、目の前に蹲り血濡れた肩を震わせるアルタイルの背に咲き乱れた翼は、あまりにもそれとかけ離れていた。
「……どういう、ことだ…これは」
おおよそ現実離れした光景に気圧されて、どんな窮地にも血腥い場面にも動揺しない鋼の心臓が震えた。絨毯に顔を伏せたままアルタイルはマリクを見ようとはせず、ただ押し殺したような声だけで答えた。酷く掠れたそれは熱っぽくさえ聞こえた。
「俺にも…わから、ない」
「いつからだ」
ぎりり、とアルタイルの片腕が毛足の長い分厚い敷布を掻き毟った。連動して腕の筋肉がうねり見事に張り詰める様は、それが人の命を縊るために形成されたものだとしても美しい。アルタイルの容赦のない指の力はまるで猛禽の爪が獲物を引き裂くかのように絨毯の毛並みを毟る。喘鳴深く虚空を突いてマリクの首筋の皮膚をぞろりと撫でた。

「痛むのか」
「い、や…」
声が震えている。やせ我慢がわかるほどにつらいのだろうか。背中から翼が生えるという感覚がどういうものかは想像もつかないが、見目からして痛々しいのは間違いなく想像に難くない。
「痛み止めを飲め。持ってくる」
「いい」
「痩せ我慢は必要な時だけにしろ。それ以外は迷惑だ」
「い、いい……マリク、」
「医者に見せて治るものかはわからんが、傷を塞がないと……」
支部にも相応の治療道具や薬はあるが、大きな傷ともなると専門の侍医に見せなければならない。任務などで傷を負った場合、普通の医者に見せると噂が漏れたり脚がついたりする場合があるので、此処エルサレムなどの大きな街には教団お抱えの医者が居る。傷の具合を見ようとマリクは男の傍らに膝をついた。うっすらと汗ばんだ肌が痙攣するように震えている。傍寄れば一層にアルタイルの気配が鋭くなる。逃げるように身を捩ったその肩を掴んだ途端、あからさまに背筋が震えた。めきりと指先が絨毯に食い込み織糸を断ち切る。あからさまな拒絶は嫌悪か、そうかもしれない。その点に関してはマリクも半ば諦観を持っていた。実力のあるアルタイルにとってマリクの辛辣な応対は気分のいいものでもないだろう。過ちではあったが確かにアルタイルは強く有能なアサシンだった。それは覆されることのない事実だ。
「マリ、ク……っ、手、を」
ゆっくりと掴んだ肩を押しやると漸くアルタイルの頭が持ち上がり、クッションと敷布に埋められていた顔が振り返る。そのぎらつく目と視線が交わった瞬間、心臓が変な音を立てたような気がした。これは、もしかすると己はよくない勘違いをしたのだろうか、と。
「アルタイル?」
「痛み、じゃない…正確には、違う」
掠れた声は酷く絶妙にマリクの聴覚を引っ掻いた。アルタイルの眼差しがやけに濡れているように見えて、一瞬自分自身の錯覚かと危ぶむ。しかし、月影の間に閃く鋭い眼差しは、ただ鋭さだけではない色でマリクを見返していた。ぎょろりと動いた双眸に憤怒ではなくもっと違う、狂おしい熱のようなものがちらりと垣間見える。また、どくりと胸が変な音を立てる。
「どういうことだ」
「神経の受容が、必要以上に鋭くなる、だから、手、…を」
其処でマリクはおぼろげながら現状を把握した。受け止める刺激が自身のコントロールを超えているのだろう。アルタイルにとって痛みに耐えうることは他の刺激に耐えるよりは易い。アサシンとしての訓練を経てそのように身体が慣れているからだ。耐え難いのはただの痛みではないからだ。マリクが触れたことが引鉄となったのだろう、振り返ったアルタイルの眼差しに溢れた濃厚な色に、思わず息を呑む。明らかに欲に塗れた色は殺気との紙一重の剣呑さで猛禽のような男の双眸を彩っていた。感覚の受容が過ぎるというのは、此方の意味でもあったのかと今更ながらに気付く。苦痛と快楽はコインの裏表のようなものだ。
「これ以上、お前には見苦しいものを見せたくない……」
アルタイルの声は拒絶にも聞こえたが懇願にも聞こえた。不意にこの眼差しを見たことがあるとマリクの思考が過去の切れ端を探りはじめる。アサシンの階級を戴いて間もない頃、過酷な訓練の後で身を寄せるようにして共に眠った時、人を殺めて身体の昂りを持て余し、共に互いの手慰みで鎮めあった時。凍て付く砂漠の夜に言葉なくただ背中を合わせて息を潜めた時。本音を滅多に口にしない男の、己を見る双眸にその希求が微かに浮かぶ刹那をマリクは気づくようになった。特別な言葉もない、けれどそれを尊いものだと思ったのは、一時の幻ではない。そう未だに信じていてもよいのならば。
触れた手を、離せなかった。それはマリク自身の願いでもあったのかもしれない。





Next

20140724